無意識の意識化と無意識化とは?
演技の初心者の為に、「演じる」ということをロジカルに説明していきたいと思います。
これを知ることにより、脱初心者への第一歩を踏み出すことができます。
無意識の意識化とは?
では「無意識の意識化」ということはどういうことか。
これは文字通り、「普段無意識にしていることを意識的にする」ということです。
例えば「歩く」という行為を、普段意識して行っていますか?
右足を出して、膝を曲げて、左足出して・・・
など意識をしたことはないと思います。
これは少々極端な例ですが、この「歩く」という行為をお芝居では意識的にします。
そうするとどうなるか?
実際にやってみてください。
「歩くぞ!」と思って歩いてみてください。
案外上手く歩けない方もいるのではないでしょうか?
これが無意識の意識化です。
具体的に考えてみよう
ではこれを今度は台本で考えてみましょう。
A「今日は良い天気ですね。」
B「えぇ、そうですね。」
このような簡単な台本があるとします。
これを実際に演じてみると、演技経験のない方はすぐに
「今日は良い天気ですね。」
と言うでしょう。
そして
「えぇ、そうですね。」
と答えると思います。
これではまるで見応えがありません。
ただセリフを喋っているだけで演技とは言えないでしょう。
しかしこの会話を普段の生活で行うと、
「今日は良い天気ですね。」
と言う前に、何かしらの感情が動くわけです。
例えば「嬉しい」とか「悲しい」とか、その場に応じた感情が発生し、それを元に発言します。
実際に空を見て感動して発言するかもしれません。
仮に「嬉しい」という気持ちで言うとなると、セリフの前の心情の動きを表現しなければいけません。
そしてもちろん、何故嬉しいのかも考えましょう。
わかりやすいのは笑顔になる、微笑むなど。
実際に声に出して読んで見てください。
「今日は良い天気ですね。」というセリフの前に、一度空を見て微笑むだけです。
そうすると自然とセリフのトーンも変わってきます。
順番で説明すると
A 何かしらの理由で晴れて嬉しい
⬇︎ ここで感情が動く
A 嬉しいという感情が動作に出る(笑顔になる等)
⬇︎ 伝えたいと思う
A 「今日は良い天気ですね。」
となります。
「今日は良い天気ですね。」というセリフを言う為には、最低でもこれだけのことを考えなければいけません。
これが「演技」です。
今度は受けて側です。
嬉しそうに「今日は良い天気ですね。」というAに対して、Bはどう感じるのかを考えます。
Bも晴れて嬉しいのか、嬉しくないのか。
Aが喜んでいて嬉しいのか、嬉しくないのか。
色々な考え方があります。
AとBの関係性によっても変化します。
ここではシンプルに、Bも「嬉しい」ということにします。
A 「今日は良い天気ですね。」
⬇︎ 言葉を聞く
B ここでAの言葉に対して反応する(嬉しい)
⬇︎ ここで感情が動く
B 嬉しいという感情が動作に出る(笑顔になる等)
⬇︎ 伝えたいと思う
B 「えぇ、そうですね。」
となります。
これらを繋げると
A 何かしらの理由で晴れて嬉しい
⬇︎ ここで感情が動く
A 嬉しいという感情が動作に出る(笑顔になる等)
⬇︎ 伝えたいと思う
A 「今日は良い天気ですね。」
⬇︎ 言葉を聞く
B ここでAの言葉に対して反応する(嬉しい)
⬇︎ ここで感情が動く
B 嬉しいという感情が動作に出る(笑顔になる等)
⬇︎ 伝えたいと思う
B 「えぇ、そうですね。」
といった感情の動きを説明することが出来ます。
これは普段誰しもが会話の中で自然に繰り返されている感情の変化です。
これを演技をする時には意識的にしなければいけません。
これが出来ない人を素人、これを無意識に出来る人を天才と世間は言います。
当たり前の反応を当たり前にする
このように普段は無意識下で様々な反応をしていますよう。
これを演技では頭で考えてしなければいけません。
これが無意識の意識化です。
ちなみに個人的な意見ですが、アユのドラマ「M 愛すべき人がいて」でのアユの演技に違和感を覚えた方も多いと思います。
それはこの普段自然としている無意識の反応が全くなかったからです。
例えばマサが「アユ、好きだ!」というセリフを言ったとします。
するとアユは「嬉しい!」と言います。
台本だけ見ると成立していますが、アユには「嬉しい」という感情に対する反応が全くありませんでした。
もしあなたが好きな人から告白されたら、果たして真顔でいられるでしょうか?
「嬉しい!」と言う前に笑顔や驚いた顔になりませんか?
それは自然と込み上げてくる感情なのです。
そのような段取りをすっ飛ばしているから、ずっと不自然な演技に見えてしまっていたのです。
この違和感を覚えた方は多いと思いますが、その原因を考えた方は少ないのではないでしょうか。
ロジカルに説明すると、アユには反応がなかったということに尽きると思います。
もちろん他にも原因はありますが・・・
その結果セリフに感情が全く乗っていない=棒読みに聞こえるという悪循環に陥ります。
もし「嬉しい!」というセリフの前に笑顔になることが出来たら、セリフのトーンが変わったり間が変わったりしていたと思います。
しかしその反応がなかったので、終始同じテンポで抑揚のない芝居になっていたのです。
普段は無意識にしていることが演技では出来なくなる、という現象がよく起きます。
それを具体的に指摘する人はあまりいないのではないでしょうか。
相手を見て当たり前の反応を当たり前にする、それはつまり無意識を意識化するということに他ならないのです。
良い台本に感情を表す言葉はない
いい台本には感情を表す言葉、例えば「嬉しい」や「悲しい」という言葉はないと言われています。
それを表情や動きで表現するのが芝居だからです。
先ほどの例で説明すると
マサ 「アユ、好きだ!」
アユ 「嬉しい!」
と「嬉しい」という気持ちを言葉で言っています。
このようなセリフがなかったらごめんなさい・・・
これなら確かに演技未経験の人でもなんとかなります。
しかしこれを
マサ 「アユ、好きだ!」
アユ 「バカ!」
というセリフにするとどうでしょうか。
これだと怒っているようなセリフになります。
実際の台本では流れがあるので意図はわかりますが・・・
だけど「アユ、好きだ!」というセリフの後に、アユが嬉しそうな泣き出しそうな表情を浮かべながら「バカ!」と言ったら、感動とともに「M」がBGMで流れることでしょう。
たぶん駆け寄って抱き合います。
逆に怒った表情で「バカ!」と言ってしまえば、それはもう完全に振られてますよね。
このようにセリフを受けた側のリアクションは非常に大事なのです。
これは誰でもわかることです。
もしこのセリフの後に、アユが満面の笑みを浮かべると「嬉しい」と伝わりますし、逆に悲しい顔や怒りの表情になると「嬉しくない」ということになります。
ですがこのような台本のほうが、ドラマとしては圧倒的に見応えがありますし、この反応にこそ役者の個性が出るのです。
無意識の意識化と無意識化
ここまで読んでくれた方は、無意識の意識化が大事だということが理解出来たと思います。
では「無意識の意識化と無意識化」とはどういうことか。
それはつまり、「今まで意識的に無意識の行動をしていたことを、無意識にする」ということです。
無意識の行動を無意識に出来るようになれ!です。
つまりこれは訓練が必要なのです。
普段自分が嬉しい時や悲しい時、怒った時にどのような行動を取るのか。
それを知り、今度は演技の中でそれを意識的にやります。
これが慣れてくると演技の中で無意識にできるようになります。
これを思いつく限り何通りもやります。
これの繰り返しが、あなたの芝居の引き出しになるのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
無意識を意識化してそれをさらに無意識に出来るようになるまで練習をする、という話でした。
今回はわかりやすくする為に、短いセリフで説明しましたが、本来は長い台本の全てでこの感情の流れを組み立てなければいけません。
すると膨大な量の解釈をすることになるのです。
だけどこれをしっかりやると、意外と簡単に台本を覚えられたりします。
無意識の意識化、もし演技をする機会がありましたら参考にしてみてください。